オーダースーツの最大の利点の一つである、生地を選び。
そのため生地のブランドに関する情報収集は、オーダースーツを作る上においてとても重要ですが、なかなか忙しくて時間が取れないもの。
そこで本記事では世界を代表する9つの生地ブランドをピックアップし、それぞれのメーカーの歴史や特徴について説明し、比較します。
この記事を読んでおけば、あるいはブックマークしておけば、お店に行った時に必ず役に立つはずです。
オーダースーツの肝である生地のブランドについて知ろう
スーツブランドは世界に数多く存在しますが、その中でも業界のトップをいくイタリア、イギリス、フランスから9つのブランドをピックアップしました。
ハリウッド俳優や一流スポーツ選手が愛用するブランドから、コストパフォーマンスに優れたお手頃なブランドまで幅広く紹介していきます。
カノニコ
カノニコは1663年創業、約350年の歴史を持つ老舗の生地メーカーです。
カノニコはイタリアンブランドの中では比較的安い価格帯で生地を提供しているため安さが注目されがちですが、金額の高いブランドと比べてもその品質は負けず劣らず。
オーストラリアにある自社持ちの牧場にはじまり、紡績・製織・仕上げを全て自社で行う一貫生産体制で、品質の担保には余念がありません。
また生産工程はコンピューター制御されており、製品ごとの品質のバラつきを防いでいるのですが
この体制は品質を担保すると共に、生産効率を上げることによりコストの削減にも結び付いています。
そしてカノニコは品質向上とコストダウン以外にも取り組んでいるのですが、何かご存じでしょうか。
それは「環境問題」です。
カノニコは生産工程の中で使用した水を一度自社内で処理し、害のない状態にしてから河川に戻しています。
本拠地を置くイタリアのビエラは水が豊富な土地として、多くの生地メーカーが犇めいていますが、こういった環境に配慮した取り組みが産業の繁栄を支えているのかもしれません。
カノニコについての説明は以上となりますが、カノニコを一言で表すと「コストパフォーマンスに優れたイタリアンブランド」と言えるでしょう。
レダ
レダはカノニコと共通点が多く、高品質な生地を安価に提供することで有名なメーカーです。
本拠地と生産体制もカノニコと同じで、イタリアのビエラにて一貫体制を敷いているのですが、レダも自社の牧場を持っており、場所はニュージーランドで広さは3万ヘクタール。
ここで「トレースアビリティ」と呼ばれるレダ特有のシステムが登場するのですが、原毛を取った羊、時期といった情報を管理し、万が一製品の仕上がりに差が出た際、基を辿って原因を見つけることができます。
また他社との差別化を図るべくレダは生地の表面加工に力を入れており、「ドルフィン加工」と呼ばれるレダ独特のツヤを出す加工法や、夏場を意識し、生地表面の温度上昇を防ぐ「Ice Sense」といった加工法など、レダでないと手に入らない機能を持った生地を世に送り出しています。
こうして作られるレダの生地は世界的に評価が高く、アルマーニ、ラルフローレン、ブックスブラザー、といったグローバルなアパレルブランドの製品に採用されています。
エルメネジルド・ゼニア
ゼニアは、イタリアンブランドの中でも1位、2位を争う高級ブランド。
政治家、実業家、ハリウッド俳優、一流スポーツなど、エグゼクティブクラスの愛用者も多く、ゼニアのブランドに一花添えています。
創業は1910年で、イタリアのトリヴェロにて、エルメネジルド・ゼニア氏の基でこのメーカーは生まれました。
創業時から品質重視の方針で、イタリア国内で有名になるにとどまらず、外国にもゼニアの生地は広まっていき、当時シェアの大半を占めていたイギリス勢のメーカーをも追い抜かす程の勢いだったようです。
そんなゼニアの特徴は何と言っても生地の品質の良さ。
それは贅沢過ぎる程のウール選びから始まります。
まず、羊の脇と肩の部分しか対象とならず、その中でも長さや色、密度や強度といった項目で基準をクリアしたものしか、使われません。
そのため基準を満たさなかったものは処分となり、コストが膨らんでしまう体制ですが、ゼニアは品質第一優先という方針の基、この体制を貫いています。
「最高の素材は優れたデザインを、最高のデザインは優れた素材を求める」というポリシーを掲げるゼニアは、世界を代表する一流ブランドと言えるでしょう。
ロロピアーナ
ロロピアーナもゼニアと並ぶイタリアトップの生地ブランド。
本拠地は創業地のイタリアのヴァルセシアで、約180年の歴史を持ちます。
ゼニア同様に素材に拘りを持つロロピアーナですが、その拘りを象徴するエピソードがあります。
毎年オーストラリアにて開かれるメリノウールのオークションが開かれるのですが、ロロピアーナはそのオークションでSuper190’s以上の原毛については、全体の30%〜40%を買い占めています。
ロロピアーなの生地はツヤ豊かな見た目もさることながら、断熱性、耐久性、軽さに優れており、着心地が良く、一生着られるスーツとして、世界中の人々から支持を得ています。
また、興味深いのがロロピアーナは生地の製造だけでなく、自社のアパレルブランドも持っていることです。
1980年代からニューヨーク、ミラノ、ヴェネチアへ直営店をオープンし、今では世界中に、日本では北海道、東京、愛知、大阪、兵庫、広島に直営店が展開されています。
そして更に驚きなのが、アパレルに留まらずインテリア界にも進出していること。
ソファー、椅子、ベッド、本業の生地を活かした製品作りで家具はもちろん、ハイクラスの飛行機内のインテリアのラインナップもあります。
極めつけは航空宇宙産業用の国際認証を取得中とのことで、ロロピアーノの発展は留まるところを知りません。
ホーランド&シェリー
イタリアンブランドを4つ続けて紹介しましたが、次はイギリスのブランドを紹介します。
ホーランド&シェリーは1836年に、ステファン・ジョージ氏とフレデリック・シェリーの二人で、イギリスのロンドンにて創立されました。
ホーランド&シェリーの生地はイギリス王室をはじめ、イギリスの老舗テーラーやパリのアパレルブランドに供給されています。
そんなホーランド&シェリーの代名詞とも言われるのが「ドブクロス」と呼ばれる生地。
ウール本来の柔らかな風合いと弾力性を活かすため、最新の高速織機は使わず、専用の低速織機を職人が扱い、1日に40mしか作る事のできない貴重な生地です。
この様に時代の流れの逆を行くホーランド&シェリーですが、一方で型紙のデータをコンピューターで処理するCAD技術をいち早く導入しており、伝統と時代の最先端技術を両立しているブランドといえるでしょう。
また、コットン、シルク、リネン、カシミヤ、ビキューナなど、ウール以外の素材も充実しており、他のブランドと比較してもコレクションの豊富さはトップクラスです。
ダンヒル
ダンヒルは今まで紹介してきたブランドとは違った歴史を持つブランドです。
まず創業は1893年、イギリスにて。
創業当時は乗馬関連の製品を扱っていたのですが、自動車産業の発展に伴い自動車関連の製品も取り扱うようになります。
オープンカー運転時用のゴーグル、雨天時に使用するオープンカー用のウィンドシールド、車の計器盤、といった製品を発表し、その名が世に知れ渡るようになりました。
そして次に扱い始めたのがタバコ関連製品。
「愛煙家が必要とするものを最高級の品質で提供すること」をモットーに、パイプ、パイプ煙草、手製シガレット、葉巻、シガレットケース、ライター、とラインナップが広がっていき、ピカソ、エルヴィス・プレスリーなど著名人も愛用する一流ブランドへと成長していきました。
現在ではスーツはもちろん、ネクタイ、香水、ベルト等の革製品など、紳士服を軸にファッションブランドとして世界トップレベルのブランドとなっています。
また、ダンヒルは2006年からサッカー日本代表とスポンサーシップを結んでおり、選手は全員、移動時にダンヒル製のスーツを着用しています。
ダンヒルとサッカー日本代表のキャンペーンは毎年行われ、もしかするとあなたも気が付かぬ間に目にしているかもしれません。
ダンヒルのルーツはスーツではありませんが、創業時から現在に至るまで常に掲げているテーマは「ダンディズム」。
乗馬、車、タバコ、紳士服、どれをとっても大人の男には欠かせないアイテムで、創業から120年以上ダンヒルはその時代に合わせたダンディズムを提案してきており、今後も世界のダンディズムを牽引していくことでしょう。
ハリソンズ・オブ・エジンバラ
ハリソンズ・オブ・エジンバラは1863年創業のマーチャントで、創業者はジョージ・ハリソン氏。
彼は後にエジンバラ市の市長となった人物です。
生地の特徴はアイロンでクセ付けがしやすいしなやかさで、扱いやすい生地として世界各国のスーツ職人から高い評価を得ています。
また、ハリソンズ・オブ・エジンバラはハリウッド映画界でもご用達のブランドで、例えばレオナルド・ディカプリオ主演の映画「ザ・グレード・ギャツビー」で登場するスーツとジャケットの大半はハリソンズ・オブ・エジンバラ製と言われています。
しなやかで着心地の良い特徴もさることながら、耐久性もハリソンズ・オブ・エジンバラの特徴。
その耐久性が垣間見えるエピソードがあるのですが、イギリスでは父親が着ていたスーツを仕立て直し、大人になった子供が着ると言われています。
ハリソンズ・オブ・エジンバラは一生着られるスーツどころか、世代を超えて受け継がれるスーツです。
イギリス製の生地は全体的に耐久性が強いのですが、ハリソンズ・オブ・エジンバラは耐久性、見た目、ブランド力、といった魅力を持った生地と言えるでしょう。
エドウィン・ウッドハウス
イギリス発祥のブランドをもう一つ。
エドウィン・ウッドハウスは1857年にハダースフィールドにて創業した生地メーカーです。
ハダースフィールドはコルネ川とホルム川、二つの川の合流点のため水資源が豊富で、毛織産業の産地として発展してきました。
エドウィン・ウッドハウスは150年の歴史を守りながらもグローバル化に積極的で、イギリスのメーカーながら近年はイタリア人のデザイナーを招き入れデザイン面の向上に努めているようです。
そしてエドウィン・ウッドハウスを語る上で欠かせないのが、ハダースフィールドの豊富な水源が無いと実現できない仕上げ手法。
地下水を利用して木製の槽の中で仕上げる「ウェットフィニッシング」という仕上げ方法があるのですが、硬水ではうまく仕上がらず軟水を使う必要があります。
ハダースフィールドには軟水が豊富にあるので、資源のメリットを存分に活かした製品作りを行っています。
ドーメル
最後にフランスのブランドを一つ紹介。
ドーメルは繊維商として1842年に創業しました。
創業者のジェールズ・ドーメルはイギリスから生地を輸入し、フランス国内で売るビジネスからスタートし、今では工場をエドウィン・ウッドハウスと同じくイギリスのハダースフィールドに構え、世界80カ国へ販売しています。
ドーメルの代名詞とも言えるヒット商品はモヘア材を使用した「トニック」。
モヘアはトルコ・南アフリカ・アメリカなどに生息するアンゴラ山羊から取れる毛で、ウールに比べてヒンヤリとした肌触りが特徴です。
その特徴を活かして夏用のスーツにトニックは重宝され、売り切れが続出し入手が困難な生地として有名になりました。
当時はモヘアを用いた生地を作る事は技術的に難しく、ドーメルのトニックが唯一のモヘア生地で、瞬く間にヒットしたのです。
そんなドーメルはかつてイギリスのロンドンに本社を構えていたのですが、オープニングセレモニーにサッチャー元首相が参加し、ドーメルの勢いを物語るエピソードとして知られています。
現在はフランス、パリの郊外「バイレソウ」に企画デザイン、在庫管理、生産管理、輸出入管理といった本社機能を集約しており、シャネルやディオール、イヴサンローランといったブランドにも生地を提供しながら、発展し続けています。
生地を決めたら、このポイントをチェック
生地の目星がついたら次にチェックしたいのが、ウールの品質、生地の細かさ、そして手に取ってみた時の感触です。
専門用語も出てくるため、ひとつずつ説明していきたいと思います。
ウールの品質
ウールの品質のチェックの方法としてお勧めなのが、取れた羊の種類のチェックです。
スーツ生地に最も適していると言われているのが「メリノ種」で、細く、弾力性があり、撥水性と吸水性の両極端を兼ね備えている、と言われています。
また、色落ちもしにくいので、長持ちの条件としては欠かせません。
生地の細かさ
スーツの袖にタグがついていますが、”SUPER○○”という文言が記載されています。
これは国際羊毛機構(IWTO)によって制定されている規格で、原毛の細さを示しているのですが、Super80`sから210`sまでの規格が存在し、数値が大きい程、原毛が細い事を示します。
そして原毛が細い程、生地がきめ細かいということになります。
SUPER規格は生地の仕様を確認する一つの方法ですが、他にも原毛を紡いだ糸の太さを示す「糸番手」や、糸の量や重さを示す「目付け」といった指標もあります。
中には公表されていないものもあるので、分からない場合は店員さんに確認してみてください。
実際に触って感触をチェック
スペックの確認も大切ですが、最後は実際に自分の手で触った感触で判断しましょう。
ここでの確認ポイントはまず生地の「しっとり感」と「弾力性」で、カサカサしていないか、生地は柔らかくて硬くないか、確認しましょう。
ただ難しいのが、柔らかければ良いという訳では無いこと。
コシのある生地を使用したスーツは、一晩ハンガーに掛けておくとシワが伸びてキレイな状態に戻ります。
柔らかいだけでは着心地は良いかもしれませんが、シワの回復力が期待できません。
なので柔らかさを確認しつつ、シワの回復がイメージできそうなコシがあるかチェックしてみましょう。
まとめ
イタリア、イギリス、フランスから
カノニコ
レダ
エルメネジルド・ゼニア
ロロピアーナ
ホーランド&シェリー
ダンヒル
ハリソンズ・オブ・エジンバラ
エドウィン・ウッドハウス
ドーメル
以上9つのブランドをピックアップし、生地選びのポイントについて説明しました。
オーダースーツを作る際、生地選びは最も重要な行程の一つですし、選ぶ前に情報収集は十分にしておきたいものです。
好みの国で選ぶもよし、スペックを重視するもよし、愛用者で選ぶもよし、実際に手に取ってみた感触のみで選ぶもよし。
また
ウールの品質
生地の細かさ
生地の感触チェック
といった点についても終盤に触れていますので、
この記事があなたの理想のスーツ作りに役立てばとても嬉しいです。