夫は甲冑師(かっちゅうし)という、伝統工芸の職人です。
もう40年も、五月人形の製作、美術館に飾られている鎧兜の修復などをしています。
いつもは畳敷きの和室の作業場で、胡坐をかいて作業をしている、手作業が命の穏やかな仕事です。
そんな夫が、ほぼ毎年出ているのが、東京都の伝統工芸展です。
伝統工芸の分野では、国内最大級の展覧会で、接客や解説が主なスケジュールです。
毎年デパートなどでは実演販売をしているけど、特に仕事着などないし、日頃服装に頓着しない夫は、いつも普段着ているジャケットを着て行っています。
だけど、東京都の催し物となると、一般のお客様の他に、行政の方やら海外からのお客様も来るので、いつもより少し良いものをあつらえたほうがいいかな、と思っています。
それに、今後はこういった公の場が多くなりそうなので、長持ちさせる意味でもちょっと良い生地と仕立てのものをと思っています。
特にサラリーマンではないから、スーツではなく上着を着ているという体裁でいいとは思うけど、夫の温厚な性格から考えて、柔らかい素材のものがいいなと思い、ロロ・ピアーナのジャケットを思案中です。
ある程度の年齢と経験があり、堅苦しすぎないけれど公の場に着用するのにもふさわしいジャケットを作るというのは、実はなかなか難しいものです。
考えるのはやはり、生地と仕立てになりますが、ロロ・ピアーナの生地は世界最高基準と言われ、様々なシーンに適しているため良いジャケットをオーダーするのには理想的です。
この記事では、そんなロロ・ピアーナの良さと生地の種類、良い生地の見分け方などをご紹介します。
1: ロロ・ピアーナとは
ロロ・ピアーナ(Lanificio Ing Loro Piana)は、古くからあるイタリアン・テキスタイルの産地、ヴァルセシアに創立された、高級カシミア、高級ウールの総合ファッションブランドです。
1924年、ロロ・ピアーナ家によって立ち上げられ、その歴史は180年以上にもなります。
特に高級カシミアや、高級ビキューナなどを取り扱うことで知られる世界のトップメーカーです。
それぞれの素材への思いはとても強く、特に高級カシミアはモンゴルの原産地から選び抜いた、ハイクォリティなものだけを使用し、世界中の最高級カシミアの30%はロロ・ピアーナが作った物だと言われています。
また、希少なビキューナに関しては、優れた原材料を求めるとともに、環境問題への高い意識を持ち、アンデス山脈の地域社会と協定を結んで2,000ヘクタールもの土地を購入し、ロロ・ピアーナ保護区としてビキューナの保護活動にも携わっています。
ロロ・ピアーナの特徴は、なんといっても他には類を見ない、その美しさとしなやかさです。
なめらかな肌触り、素晴らしい光沢の生地は、世界中のセレブたちから愛されています。
ロロ・ピアーナは希少価値の高い布地を、多数取り扱っており、その中にはビクーニャの毛織物や、ビルマの蓮の花から作った布地などもあります。
イギリスのゼニアと並ぶ、世界最高峰の生地ブランドとして、世界にその名を知られています。
ロロ・ピアーナの生地は最高級ですが、他の生地とどう違うのか、生地の選び方や見分け方について、次の章でご紹介します。
2: 良い生地の見分け方
良い生地の見分け方は、質感や触感、風合い、光沢など様々です。
その中で、有名ブランドであるということを、一つの基準にしている方も多いと思いますが、ブランドには2種類あることをご存知でしたか?
2.1: ブランドの種類
ミルブランド
ミルとは、自社で生地の製造から仕上げまでを一貫して行っているブランドのことです。
今回ご紹介しているロロ・ピアーナやゼニア、ハリスツイードなどがその代表です。
マーチャントブランド
マーチャントとはいわゆる商社のことで、他社の生地を用いて製造するブランドのことです。
世界中から良い素材を集められるため、バリエーションが豊富です。
ドーメルやスキャバル、ドラッパーズなどがあります。
2.2: SUPER表示
素材で「SUPER100’S」などという表示を目にしたことはありませんか?
SUPERとは、重さ1kgの原毛から、何kgの長さの糸が取れるかという基準です。
従って数値が大きいほど、細く繊細な糸と言うことになります。
しかし、SUPER○○’Sと表示されていても、その生地全体の糸が、SUPER○○’Sで作られているとは限りません。
数値の高いSUPER○○’Sなのに、あまりしなやかでない場合、SUPER○○’Sの使用量が少ないものもあるとのこと。
そこで、やはり確かなのはきちんとした製法で、誇りを持って営み続けているブランドを信頼するということになります。
ロロ・ピアーナは、18世紀ヨーロッパで「ザ・キングオブ・キングス」と呼ばれた最高級のメリノ・ウールに習い、同じこの名をつけて、最高級素材を作り上げました。
その糸は、わずか12ミクロンという細さでカシミアよりも細く、なおかつビキューナのように軽い非常に希少な繊維です。
最高級の素材にこだわるロロ・ピアーナならではのデリケートな素材です。
2.3: ドレープ感
人が袖を通すことによって生じる、自然なシワや凹凸は、生地のしなやかさやドレープ感、光沢を生み出します。
良い生地は、ルネサンス期のイタリア絵画のように、惚れ惚れするような光沢やドレープ感があります。
光沢やドレープ感は、原材料の良し悪しによって、大きく左右されますが、ブランドの織りや仕上げの技術によっても左右されます。
同じSUPER○○’Sでも、ブランドによって光沢感があったりなかったりするというのです。
例えばロロ・ピアーナのFour Seasonsシリーズは、SUPER110’S~120’S程度ですが、その光沢は他のメーカーやブランドとは比較にならない程とのこと。
生地だけでも、仕立てだけでもなく、両方を見てこそ、本当に良いものが手に入ると言えます。
2.4: 実際に触れて確かめる
百聞は一見に如かずと言いますが、やはり最終的にはご自分の手と目で確かめるのが一番です。
ブランドやSUPER表示だけに頼らず、生地を実際に触ってみて、凸凹をつけたり曲げた具合を確かめたりするのが良いでしょう。
信頼のおけるテーラーがいたら、着る人の好みを伝えてアドバイスをもらいながらオーダーすれば、納得のいく一着が出来上がることでしょう。
3: ロロ・ピアーナの生地の種類
ではまず、ロロ・ピアーナの生地のご紹介です。
ロロ・ピアーナはどんな生地を扱っているのか、ジャケットを作るのに、どんな生地が適しているのかをご覧ください。
3.1: タスマニアン
イタリア語でタスマニアンとは、「軽いウール・ファブリック」を指すのだそうです。
タスマニアと言えば、オーストラリアの島の名前です。
このウールは、元は自然たっぷりのタスマニアのメリノ・ウールから作られていたとのこと。
タスマニアンは、ロロ・ピアーナが自身で教会用に作ったファブリックにヒントを得て、1960年代に、軽くて多用途、しわになりにくくエアコンの効いた場所に適した、モダンで新しいウェアというニーズにこたえる形で、生まれました。
現在はオーストラリアの厳選されたウールを使用されて作成されています。
1mあたりで250gしか取れないというタスマニアンは、最も軽いファブリックで、季節を問わずエレガントな装いに適しています。
3.2: ロロ・ピアーナ ゼニス
ロロ・ピアーナ ゼニスに使われている素材は、極細の希少な13.5ミクロンのSUPER200’Sメリノ・ウール、伝説の素材ビキューナ、最高級のカシミア、シルキーなチンチラ、そしてリネンの5種類です。
それら最高級の素材を絶妙にブレンドし、新しいオリジナルブレンドの素材がロロ・ピアーナ ゼニスです。
SUPER200’Sメリノ・ウールはスーツ、ジャケット、ブレザーなどの多彩な用途、様々な場面にもふさわしいファブリックです。
また、最高級品質のカシミアは、「ジベリン」という洗練された仕上げによって、比類ない柔らかさと輝きをもつコート用のファブリック。
ロロ・ピアーナ ゼニスは特別な服を求める人への最高の生地なのです。
3.3: ロロ・ピアーナ・ザ・ウェーブ
ロロ・ピアーナ・ザ・ウェーブは、ハードツイスト・3プライ・ヤーンを使用し、エクストラファイン・SUPER150’Sメリノ・ウールの糸に、1kgあたり570kmという世界で最も細いヤーンのシルク600のフィラメントを撚り合わせて作られています。
ザ・ウェーブは光沢があり、シルクのような手触りで着心地が非常に良いのが特徴です。
混紡によって高められた耐久性、防しわ、通気性を持つため、多彩な用途に答えられるファブリックです。
男女を問わず、また旅行好きな人のための実用的なデザインと謳っています。
3.4: ウィッシュ
ウィッシュはとても軽くて滑らか、柔らかな手触りで、ドレープの美しいフォーマル・スーツ用のファブリックです。
オーストラリア産の直径15ミクロン以下のSUPER170’Sメリノ・ウールを使用し、エレガントで洗練されたファブリックで、1年を通して着られる質感と軽さのファブリックです。
3.5: レコード・ベール
「宝石」と称される、貴重な高級ウール「レコード・ベール」。ロロ・ピアーナは1997年から、オーストラリアとニュージーランドで毎年最高級の「ワールド・レコード・レーベル」と言われるウールのベールを買い付けています。
各ベールからは、ごく少量のスーツ用ファブリックしか生産できません。
そんな貴重なベールは、丁寧に染色、デザインされ、特別なセルヴィッジ(縫い合わせ部分の耳)で区別され、刈り取られた年度と生産国、繊維の細さを証明するラベルが貼られるとのこと。
レコード・ベールの購入者には、次回生産されるレコード・ベールの優先購入権を約束し、毎年新しいレコード・ベールのスーツを作れるように保証しています。
ロロ・ピアーナは毎年最も細いウールを生産した、オーストラリアとニュージーランドの各ブリーダーに、権威ある賞を与えています。
それも、より高品質なウールの生産を奨励し、保証するためです。
現在のレコード(記録)はオーストラリアの10.3ミクロン(ピレニーズ・ファーム)のベールとのことです。
4: ジャケット
生地の良さをお分かりいただいたところで、最後にそうした生地を使用して作る、ジャケットのご紹介です。
オーダーメイドのジャケットを作る際の参考になれば幸いです。
4.1: MADRID ウール、シルク&リネン
テーラードジャケットのルックスと、インフォーマルなカットのセミコンストラクテッドのジャケットです。
プリンス・オブ・ウェールズ・チェック柄で、多彩な用途に用いることができます。
4.2: MADRID カシミア&シルク
洗練されたサルトリアルカッティングのシングルブレスト・ジャケットです。
ファブリックは単色のカシミアとシルク・フランネルを使用しています。
カシミアの醸し出す極上の柔らかさと温かさのなかに、シルクの光沢感が光ります。
4.3: MADRID カシミア
テーラードジャケットのデザインで、カットをインフォーマルな雰囲気に仕上げたジャケットです。
カシミアのファブリックを使用しているため、多彩な用途に使用できます。
最高品質のジャケットです。
4.4: SOFT JACKET
カジュアルでありながら非常に洗練されたリネン、コットンのジャケットです。
高いサルトリアの基準に基づいて作られており、着る人の魅力を最大限に引き出すよう考えられています。
見返しと襟の補強にハンドステッチをあしらい、内側は折り伏せ縫い、アームホールのランニングとボタンは手縫いと、見た目の軽やかさとは裏腹に、徹底したハンドメイドを貫いています。
5: まとめ
ロロ・ピアーナの生地の魅力について、余すことなくご紹介してきましたが、いかがでしたか?
ロロ・ピアーナが世界から称賛されるわけは、最高級の素材に対する情熱と、変わらぬ姿勢です。
最高級のカシミアを求めてモンゴルに赴き、極細のメリノ・ウールを追求するためオーストラリアとニュージーランドの生産者に賞を授与し、希少なビキューナに至っては、自ら自然保護地区まで作ってしまいます。
それもこれも、ロロ・ピアーナをまとう人の、最高の1着のためなのです。
オーダージャケットを作る際、同じ生地を使っても仕上がりの良し悪しは、仕立てにも左右されます。
ロロ・ピアーナの生地の良さを本当に理解し、十分に生かせるテーラーを見つけましょう。
ロロ・ピアーナの生地を使用し、信頼のおけるテーラーにオーダーメイドで作ってもらうジャケットは、家でお手入れし続けながら、愛着を持って長く着られることでしょう。
今後の旦那様にとって、公の場で羽織るにふさわしい、さりげない高級感を演出できる、大切なジャケットとなるでしょう。