ジャケパン愛用者なら一着は持っていたい、イタリアブランドのジャケット。
イタリアのジャケットと店員さんに尋ねると、ボリオリやラルディーニを勧められがちですが、イタリアブランドのジャケットは、ボリオリとラルディーニだけではありません。
セレクトショップ買いを卒業したい、本物志向のあなたに贈る「本物の見極め方」ガイドと、ジャケットのイタリアブランド7選をご紹介します。
本物を見極めるには
イタリアンジャケットを購入するのなら、やっぱり質の良い確かなものを手に入れたいですよね。
そんな時、何を基準に、どう見極めたら良いでしょう。
ブランドでしょうか、それともハンドメイド?
ブランドは、名のあるブランドならと安心してしまいがちですが、実は流通過程でコストを落とすため、粗悪な生地をあえて使用し、アジアの工場で安価に大量生産しているいわゆるB級品があります。
「あのブランドが驚きの価格で」という謳い文句のジャケットは、気をつけたほうがいいかもしれません。
手をかけた裁断や縫製、丁寧な仕事と上質な生地には、やはりそれに見合った価格がついているものです。
一概にハンドメイドが良いわけでもない
日頃私たちがよく雑誌などで目にする、10万円程度の価格帯のジャケット。
このランクのジャケットは、マシンメイドによるものです。
縫製にはハンドメイドとマシンメイドがありますが、マシンメイドといっても全行程をオートマチックで製造しているという意味ではありません。
ミシンによる縫製がメインのことをマシンメイドと呼んでいます。
高級スーツやジャケットのラペルには、よくステッチが施されていますが、これをAMFステッチといい、手縫い風のミシンを人の手によってかけています。
一方、完全ハンドメイドと呼ばれるものは、本当にひと針ひと針を人が手縫いします。
AMFステッチ
手縫いステッチ
片方ずつ出されたら、その違いはほとんど分からないですよね。
ステッチがしてあると高級に見えますが、実はそれほど重要ではありません。
もちろん最高級の着心地を目指すなら、手縫いのステッチを見極める目を養い、完全ハンドメイドを選ぶことをお勧めします。
しかし普段使いでそこまでこだわる必要がないなら、むしろ気をつけるべきは生地の質です。
気をつけるべきは生地の質
ジャケットには必ず生地の配合が記されたタグがついています。
「バージンウール100%」や「メリノウール100%」などをよく目にしますよね。
バージンウールには二つの意味があり、
・まだ一度も毛を刈ったことのない子羊から採った、初めての羊毛
・再生ウールを使っていない新しい羊毛
の2種類です。
また、メリノウールとは、ウール(羊毛)の中でも最高級のメリノ種という羊から採れる羊毛のことです。
メリノ種は、主にニュージーランド、オーストラリア、フランスなどで飼育されています。
特徴は一般のウールに比べて繊維が細くて柔らかく、肌触りが良いこと。
ウール100%という表記があっても、そのウールがどんなウールなのかによっても違いが出てきます。
また、ウールマークにも3タイプがあり、よく見かける5本の線で三角形が作られたものは新毛100%、そのほかはブレンドされたウールです(画像の真ん中は新毛50%、向かって右は新毛30〜50%)。
ニットのジャケットなどを購入するときは、このマークがついていることがあるので、目安にしてみてくださいね。
生地にはウールと他素材の混紡したものも多く存在します。
たとえそれなりの価格でも、素晴らしいバージンウール100%のジャケットもあれば、50%がポリエステル混のジャケットもあります。
ポリエステルなどが多く混じっているものほど粗雑な生地になってきますのでご注意を。
生地以外にはどうやって見分けたらいい?
生地が良いものは、大抵仕立ても良いですが、中には本場イタリアから日本へ流通してくるとき、日本人の体型にアレンジされているものがあります。
それらのものは本場で製造しているわけではなく、別の場所でオーダーされた形で作られるため、ボタンホールや細かな部分の処理が甘いなどの問題が出てきます。
また、日本人向けの形に成形されるということは、本場のデザイナーが考えたバランスが崩れるということ。
肩から胸へのボリュームがダウンされていたり、ウエストのシェイプが本場のものより緩やかで、いわゆる寸胴に近い形のものまであります。
ではどうしたら良いものを見極める目を養えるのでしょう。
それにはやはり、本物を見るのが一番です。
しかし、セレクトショップではなく、ブランド直営店へ足を踏み入れるのにはちょっと勇気がいる、という人も多いでしょう。
そんな時にお勧めしたいのが、「カルーゾ」と「アットリーニ」。
この2つのブランドは、イタリアンジャケットの中でも比較的品質が安定しており、シルエットも崩されていません。
カルーゾやアットリーニを直接手に取ってみたり、試着したりするだけでも、十分本物を見る目が養われます。
本物に多く触れることによって見る目が養われたら、あなたのジャケパンスタイルは今よりもワンランク洗練されたものになるはずです。
オススメのイタリアンジャケット7選
ここからは、オススメのイタリアンジャケットのブランドをご紹介しましょう。
ボリオリやラルディーニ以外も色々と観て、ご自分の好きな傾向を発見してみてくださいね。
まずは定番|BOGLIOLI ボリオリ
日本でイタリアンジャケットといえば、初めに名前が出てくるのがボリオリ。
ボリオリは1890年にイタリアで創業されたブランドで、創業当時の伝統に現代的要素をプラスした「クラシック&モダン」をコンセプトとしています。
機械による量産品でありながら、手仕事も落とし込んだものづくりは有名です。
2003年に発表されたカシミア100%のジャケットに製品染め加工を施した斬新な手法が話題を呼んだ「Kジャケット」、2008年に大ブレークを果たした「ドーヴァー」などが代表作。
ボリオリが世界に放った肩パッドなしのソフトジャケット「アンコン」は、ファッション界にセンセーショナルを引き起こし、ビジネスにもカジュアルにも着られるジャケットという新たな分野を切り開きました。
アルパカの微細パターンKジャケット。
裏地なしのアンコン仕立てで、柔らかな手触りと柔らかい着心地が特徴のスリムフィットスタイル。
ストレッチウールのスフォルツァジャケット。
端正なシルエットは、きちんとなりすぎないジャケパンにぴったり。
良いものは良い|LARDINI ラルディーニ
1978年、イタリアの中部のアドリア海に面した港町アンコーナ近くの小高い丘にある街、ビロットラーノで誕生したラルディーニ。
創業当初、アンドレア、ルイジ、ロレーナの3人によって小さな仕立て工房がスタートしました。
ルイジがデザインを担当し、コンピューターエンジニアであったアンドレアが技術面と経営を担当、ロレーナが財務経理を管理し、確かな技術と誠実な仕事ぶりはすぐに評判を呼ぶようになります。
そして、様々なデザイナーズブランドの生産を担当することになり、現在まで30年以上も、世界中の名だたるメゾンブランドのOEMブランドとして、製品を提供し続けて来ました。
メイドインイタリーにこだわりを持ち、全てのアイテムを国内で作り、ハンドメイドの技術で高い評価を受けているラルディーニ。
2007年にはメイドインイタリア保護協会にも属し、さらなる完全なイタリアンメイドの製品を世に送り出しています。
ラルディーニの特徴は、確かなサルトリアの伝統を受け継いだその技術と、常識を破ったファブリック遣いにあります。
“Easy”3B Houndtooth Checkジャケット
“Easy”は、従来のジャケットより気軽に羽織れるよう、より軽量化し、かつ柔らかな仕立てにこだわったコレクション。
しかし、その外観は構築的に見える肩周りや滑らかなラペルのかえりなどが、ジャケットらしい顔を持ち、オンオフのジャケパンスタイルをサポートします。
カシミアジャケット
しなやかで軽やかな着心地のカシミア100%のジャケット。
温かみのあるキャメルブラウンが、リラックス感とエレガンスを演出し、オフホワイトやコーデュロイのパンツを合わせてコーデしたい一着。
今きてる大注目ブランド|TAGLIATORE タリアトーレ
1960年代に創業したレラリオ社を母体にもつタリアトーレは、レラリオ社2代目のピーノ・レラリオが立ち上げたオリジナルブランド。
ピーノ氏の抜群のファッションセンスが細部にまで息づくブランドです。
タリアトーレの特徴は、何と言ってもその絶妙な着丈とウエストシェイプ。
袖を通せばまるで体に吸い付くようなタイト感は、他のブランドでは味わえないもの。
そして、もう一つ特筆すべきは、その生地選びの素晴らしさです。
元々ウィメンズで使用される素材をメンズに転用したり、人気のホップサップ風生地をうまく取り入れたりと、トレンドを上手に先取りしながら使うのが得意。
そしてイタリアらしい色使いも忘れてはいません。
また、高品質なのに良心的な価格なのにも定評があります。
イギリスのスーツスタイルの流れを組むサルトリア、タリアトーレは、他のブランドよりもイギリス寄りのクラシカルなデザイン。
タリアトーレのジャケットは、着用したとき体が一番美しく見えるフォームに計算され尽くされたジャケットなのです。
ボタンなどのディテールは、バイヤーが選択できるシステムなので、セレクトショップによって製品が微妙に違います。
ハイセンスなカジュアルテイストなら|L.B.M.1911 エルビーエム1911
イタリアで最も古いファクトリーの一つ、Lubiam(ルビアム)が2006年に発表したスポーツライン、L.B.M.1911(エルビーエム1911)。
数々の著名なブランドの生産を手がけ、多数の賞にも輝いたルビアムの伝統と歴史、技術力を生かし、カジュアルで現代的でありながら、クオリティの高さは類を見ないブランドです。
スポーティーでカジュアルなだけでなく、ビジネスライクなジャケパンにも使える、シックなジャケット。
ファブリックにはベビーアルパカやカシミア、極上のウールなどを使っています。
洗練されたラインの美しさは、ずっと見ていたいほど。
着心地重視のあなたは|CANTARELLI カンタレリ
カンタレリは多数の著名ラグジュアリーブランドのOEMブランドで、仕立ての良さや妥協のない構造が生み出す着心地の良さは群を抜いています。
1976年、イタリアのトスカーナ州リグティーノで創業されたカンタレリは、マシンメイドでありながら、ハンドメイド製品並みのクオリティの高さを可能にしたブランド。
アパレルブランドと違い、高度な技術を培ってきたファクトリーブランドであるカンタレリは、本当に良いものを着たい人のためのブランドといっても過言ではないでしょう。
また、カンタレリは「ジャージープラネット」というジャージー素材のテーラードジャケットを世界に先駆けて成功させ、定番化させたブランドでもあります。
ACカンタレリというラインもありますが、これは廉価ラインで、素材や仕立てがまるで別物になりますので要注意。
プラネットジャージー。
極上のジャージー素材がもたらす軽やかな着心地は、心と体を解放し、軽くしてくれます。
カンタレリはチェックのジャケットが豊富。
ロロ・ピアーナも認める美しさ|CARUSO カルーゾ
良い生地の見分け方でもご紹介した「カルーゾ」。
シルエットの美しさと上質な生地、エレガントな仕立てに定評のあるブランドです。
カルーゾは1958年に南イタリアのパルマで立ち上げられたメンズスーツのOEMブランド。
パルマは今でこそハムやチーズなど美食の街として有名ですが、昔はテーラーの町として知られていました。
パルマのテーラーは、ナポリやミラノのような仕立てのクセがなく、依頼通りの型紙を引いてくれるとされ、重宝がられていました。
そのため、昔ながらのパルマの伝統を引き継ぐカルーゾには、今でもイタリア内外からのOEM依頼が後を断ちません。
ゼニアやロロ・ピアーナ、ベルルッティ、ルイ・ヴィトン、イヴ・サンローラン、ポールスチュアートなど、名だたるラグジュアリーブランドも、スーツやジャケットをカルーゾで生産しています。
伝統的なハンドメイドと最新のマシン技術を融合させた立体裁断システムに、必要な部分だけハンドメイドを施す合理的な生産方法を採用し、「パルマの名門ファクトリー」として呼び声も高いブランドです。
また、カルーゾのデザインにおいて重要なのが、デザイナーのマルコ・ジョルナ氏。
韓国のサムスン社のテキスタイル部門にいたという経歴を持ち、ファッション業界では名の通った人物です。
著名な生地ブランドからのヘッドハンティングを蹴ってまでカルーゾに来たと言われており、卓越した技術と深い知識が、今日のカルーゾを支えています。
カルーゾは柔らかで上質な生地、伝統のテーラード技術と最新の機械を使いながらも、最後は手作業で完結させるものづくりへのこだわりを持ち、他とは一線を画すブランド。
近年ではリニューアルによって、イタリアンクラシコの枠にとらわれない魅力的なアイテムも次々登場し、ヨーロッパ諸国に影響を受けた様々な製品を世に送り出しています。
リラックスした肩の雰囲気や美しいシルエットは、一見の価値ありです。
100%GOBIGOLDウールのトスカジャケット。
小ぶりなカラーと繊細なシルエットが上品なジャケットです。
右:アルパカ混ウールとシルクトスカ混紡のバイカージャケット
左:アルパカウールのウィンドウペーンジャケット
肩のラインが自然でリラックス感に溢れていますね。
カルーゾの製品は機能性も追求し、こんなポケットを作り出しました。
ジャケットの内側フロント部分です。
これだけ色々入れば、手ぶらで移動できますね。
ジャケットに多用されているファブリック「GOBIGOLD」は、モンゴルのゴビ砂漠に住むラクダから採ったカシミア。
ゴビ砂漠のラクダの中でも30%しか適さないという厳しいテストを潜り抜けた繊維で、高級カシミアの約1/3にしか満たないとされる希少な高級ウールです。
当初はコートや厚めのジャケットのみに使用していましたが、ロロ・ピアーナトとの共同開発により、柔らかくて伸縮性かつ軽量な生地を実現、テーラードスーツや春夏用のジャケットにも採用できるまでになりました。
元祖イタリアンクラシコ|Ceasare Attolini アットリーニ
アットリーニといえばナポリのサルトリアの代名詞とも言われるほど有名なブランド。
元々イギリスのスーツ文化を源流にもつイタリアのファッションですが、いち早く機械による産業化を確立したイギリスに比べ、イタリアは職人文化が発達していた商人の国。
そのためイギリスのスーツスタイルに、イタリア独自の美的センスとイタリア人のための改良を加え、今では世界三大スーツスタイルの一つにまで数えられるようになった「イタリアンクラシコ」を確立しました。
中でもイタリアンクラシコを世界に知らしめることになったナポリのスタイルに貢献したのが、ナポリに開業した仕立て屋「ロンドンハウス」であり、ヴィンツェンツォ・アットリーニです。
ヴィンツェンツォ・アットリーニはすでにあったスタイルに満足することなく、美しいシルエットと優れた着心地を追求し、ナポリの粋を表現すべく改良を重ねていきました。
今日の「ナポリ仕立て」と呼ばれるディテールの多くは、彼が作り出したもの。
例えば、4つのボタンを少しずつ重ねてつける「キッスボタン」、全てのボタンホールに穴かがりを施すディテール、船底のようなカーブのバルカポケット。
また、マニカカミーチャと呼ばれる、肩にギャザーを寄せてつける技法や、今では定番となっているジャケットの3つボタンさえも彼が生み出したものです。
この天才的サルトの跡を継いだのが、チェザレ・アットリーニです。
チェザレ・アットリーニは仕立てだけでなく、ビジネスの才にも恵まれ、イタリアのメンズプレタポルテを確立した第一人者と言われています。
彼はキートンやイザイアを成功させた後、自身のオリジナルブランドとしてチェザレ・アットリーニを新たに設立し、ナポリの仕立てを世界中に発信しています。
チェザレ・アットリーニの魅力は、手縫いを中心とした仕立てです。
他のイタリアンブランドのジャケットと違い、立体的で膨らみのあるラペルとバランスの良いゴージの袖は、吊るしてもそのシルエットを崩すことはありません。
チェザレ・アットリーニのジャケットの特徴は、軽快さを追求しながらも、あくまで最低限のシルエットは崩さない、着る人の体を美しく見せるための仕立てです。
多くのイタリアンクラシコに見られる、ラフなアンコンジャケットではなく、イギリスのトラッドに則った、基本をベースにしたジャケットは、イギリスのスーツに改良を重ねた歴史を持つアットリーニだからこそ。
今ではナポリのディテールの代表のように言われるバルカポケットも、彼の立体的な前身頃に合うように工夫された、必然から生まれたものです。
またダブルステッチに関しても、同じような必然から生まれたもので、全てはその造形の美しさと着心地を優先するためのものなのです。
ラフになりすぎない肩は、全てのジャケットに薄いパッドが入っているから。
体型にフィットした美しいライン。
アットリーニの特徴の一つ、ダブルステッチ。
イタリアンジャケットまとめ
良いイタリアンジャケットを見極めるコツはステッチにあらず。
大切なのは、ジャケットに使われている生地です。
もちろんいくら使われている生地が高級でも、細部の仕立てがお粗末では話になりませんが、高級生地を使っているジャケットなら、仕立てもまず間違いないと思って良いでしょう。
ご紹介したブランドは、
【BOGLIOLI ボリオリ】
代表作はKジャケットとドーヴァーで、アンコン仕立てを広めたブランドでもある。
【LARDINI ラルディーニ】
生地、素材、仕立てまでを一貫してイタリアで行う、メイドインイタリーにこだわるブランド。
【TAGLIATORE タリアトーレ】
デザイナーでありオーナーのピーノ氏のセンスが光る、絶妙なバランスの服を生み出しているブランド。
【L.B.M.1911エルビーエム1911】
イタリアの老舗ブランド・ルビアンの伝統と技術を受け継いだ、ハイクオリティなカジュアルブランド。
【CANTARELLI カンタレリ】
マシンメイドながらハンドメイド並みの高い技術を誇るブランド。ジャージープラネットが有名。
【CARUSO カルーゾ】
シルエットの美しさと上質な生地、エレガントな仕立てはあのロロ・ピアーナと共同開発するほど。名だたるラグジュアリーブランドも多数手がけている。
【Ceasare Attolini アットリーニ】
ナポリのサルトリアで、イタリアンクラシコを確立させた伝説のサルトを創業者に持つブランド。袖の4連のキッスボタンやバルカポケットもこのブランドから。
イタリアンジャケットを購入する際の一助になれば幸いです。